この記事では、企業理念のつくり方を、コピーライター視点で紹介していきます。
パーパス、ミッション、ビジョン、バリューなど。
「この会社は、何のために存在しているのか?」をことばにする相談が、近年ますます増えています。
めまぐるしく変わっていく世の中に合わせて、企業の存在意義も変化することを求められており、その言語化に頭を抱える経営者は、想像以上に多いです。
私自身、freeeなどの事業会社をはじめ、ローカル企業、地方自治体、スポーツ団体などいろいろな組織の理念づくりに携わらせてもらいましたが、理念の言語化は大きなインパクトを生み出す力があると感じています。
本記事では、実践の中で見えてきた「その企業らしい理念のつくり方」を、できるだけ具体的に書いていきます。
経営者の方や、企業で理念づくりを検討されている方の参考になれば幸いです。
1:そもそも企業理念って?
企業理念といえば、皆さんは具体的にどんなものを思い浮かべますか?
たとえば、
トヨタ自動車「わたしたちは、幸せを量産する。」
メルカリ「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」
ヘラルボニー「異彩を、放て。」
パタゴニア「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」
などなど、多くの企業は理念を掲げています。
企業理念は、その会社がなぜ存在するのか?何を目指しているのか?などを言語化した、あらゆる企業活動の核となるものです。
事業のつくり方、組織のあり方、社内外のコミュニケーション。その企業に携わる多くの人が、長い期間、よりどころにすることばです。だからこそ、思いつきやかっこよさだけでは決められません。

企業理念を構成する要素は、その企業によって千差万別ですが、ことばの役割別に分けると、大きくは「パーパス」「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の4つに整理できます。
- パーパス:組織の社会的存在目的 / 私たちの組織の存在する目的は何か? / WHY WE EXIST
- ビジョン:組織が見たい未来像 / 私たちはどのような景色をつくりたいか? / WHAT WE WILL SEE
- ミッション:組織が果たしたい社会的役割 / 私たちは何のために存在しているか? / WHAT WE DO
- バリュー:組織が大切にしたい価値観 / 私たちがこだわりたいことはなにか? / HOW WE ACT

参考:理念経営2.0 ── 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ(佐宗 邦威 著)
大事なのは、この4つすべてを言語化する必要はない、ということです。その企業に合わせた構造と表現で策定することが、なにより大切になります。次の章では、この「構造」の選び方についてお話しします。
2:会社ごとにちがう「理念の構造」
「MVV(Mission・Vision・Value)」ということばを耳にしたことがある方も多いと思います。ただ、杓子定規にこの構造にあてはめる必要はありません。大事なのは、その企業に合う構造で言語化していくこと。ここでは、代表的な3つの構造を紹介します。
構造①Missionのみ
「ミッションのみ」の構造をとっている企業の一例がメルカリです。

ミッション(組織が果たしたい使命、社会的役割)が核になっています。
ビジョン(組織が見たい未来像、どのような景色をつくりたいか)はあえて規定せず、自由度を高くしています。
社会的役割が明確な企業ほど、ミッションが核になりやすい。あえてビジョンを定めない、という選択肢もあります。
ポンチ絵で表すと、下記のような構造になります。

構造②Mission・Vision
「ミッション・ビジョン・バリュー」いわゆる、MVVの構造をとっている企業の一例がfreeeです。

この構造は、ミッションは社会的役割として普遍的な位置付けにし、ビジョンは「(数年後に)自分たちがありたい姿」として定期的に進化させていく方法をとることが多いです。
たとえばfreeeは、2021年にビジョンを「ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」から「だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム」に進化。「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを実現するために、会計領域だけにとどまらず、経営をまるごと自由にする、というビジョンへと拡張しました。

構造③Vision・Mission
ビジョン・ミッション・バリューの構造で整理している企業の一例が、リクルートです。

どんな景色のため(ビジョン)、どんな登り方を(ミッション)、どんな装備で(バリュー)、山を制覇するのか。
山登りのイメージで整理すると、この構造はわかりやすくなります。
ビジョンは普遍的なもの、ミッションはそこに至るための手段として、定期的に進化していくものです。明確に「見たい景色」がある企業は、ビジョンが核になりやすく、ミッションはその手段として位置づけられます。

代表的な3つの構造を紹介しましたが、他にもビジョンのみ、パーパスのみの構造や、「フィロソフィー」と定義する企業、ステートメントのような形式で表現する企業もあります。ただ、大まかにはこの3つの構造に当てはめて考えれば十分です。
「使命(MissionやPurpose)が核になるか?」それとも「ビジョン(みんなで見たい景色)が核になるか?」、そこが明確になっていると、その企業に適した構造は自然と決めやすくなります。
3:つくり方は、ざっくり3ステップ

STEP1|ヒアリング
創業のきっかけ、果たしたい使命、見たい未来像。理念の種になるものを、社内外のさまざまなステークホルダーに聞いていきます。
(ヒアリングのポイントについては後述の「5:とりわけ大事なのがヒアリング」で触れます)
STEP2|コンセプト(理念の核)の言語化
ヒアリングの内容を踏まえて、理念の核になるものを、まずは平易な日本語で言語化します。ここで大事なのは、ことばの「好き嫌い」や「かっこよさ」より、「正しさ」と「解釈のブレのなさ」です。
核が言語化できたら、それに合わせて、前章で紹介した、どんな理念構造がその企業に合うのかを定めていきます。
STEP3|コピーライティング
言語化したコンセプトを土台に、その会社らしい理念表現に昇華させます。
STEP1のヒアリングのさいに「その企業らしい人格」を聞いておくと、その企業らしさを表現しやすくなります。
順番を飛ばして、理念の核の部分が固まっていないのに、いきなり表現をつくろうとしても、だいたいうまくいきません。「この言い回しが好き・嫌い」という議論に足をとられて、肝心の「何を核にするか」が置き去りになってしまうからです。
核を決める、構造を選ぶ、表現に昇華する。このステップを踏むことが、遠回りに見えて、実はいちばんの近道になります。
4:実例の紹介
ここまで構造やステップの話をしてきましたが、一番伝わりやすいのはやはり実例だと思います。ここでは具体例として、私が携わった兵庫ヤクルトのプロジェクトを紹介します。
ケーススタディ:兵庫ヤクルトの理念刷新
2023年に社長が代替わりし、2025年に企業理念を刷新するプロジェクトが始まりました。
兵庫ヤクルトはヤクルトの宅配事業から始まりましたが、シニア事業(老人ホーム紹介事業)や、暮らしの困りごとを解決する事業、まちの相互扶助の輪を広げる「コミュニティナース活動」など、新規事業をどんどん広げようとしているフェーズでした。
長年かけて築いてきた、ヤクルトレディたちの地域とのつながり・情報網・信頼という資本を活かして、兵庫ヤクルトは「地域の心身社会の健康を支えるハブ」になろうとしていたんです。
このプロジェクトには、PARK Inc.でチームをつくり、私はCD(クリエイティブディレクター)として、コピーライターの竹内さんと一緒に、兵庫ヤクルトの皆さんとこだわり抜いて言語化していきました。
そこで生まれたのが、こんな理念です。
- ビジョン(みんなで目指す理想の社会):
「ほっとかへん。」 - ミッション(私たちの使命):
「予防を、希望に。」 - バリュー(行動指針):
New Try!/ひらめき→カタチに/テキパキ テキパキ/おしゃべリング/期待こえてる?/理想を話そう




参考:兵庫ヤクルト Vision・Mission・Valueの紹介サイト
(👆ヤクルトレディのストーリーなども紹介されていますので、ぜひアクセスしてみてください)
「ほっとかへん。」という関西弁の一言に、地域の人を放っておけない、おせっかいなくらい寄り添ってきた兵庫ヤクルトの人格をそのまま宿らせています。
どストレートに言語化すると「心身社会の健康のインフラになる」みたいな理念になると思うのです。
それは意味としては正しいですし、「ヤクルト(だけ)を販売している企業ではない」という事業の広がりを正確に説明できてもいます。ただ、それでは兵庫ヤクルトの根幹を支えてきた「ヤクルトレディの声」にはならないのです。
意味は合っているが、ヤクルトレディや兵庫ヤクルトの人格が宿っていないから、人の感情が動かない、体重が乗らない。よって、行動や価値を生み出す求心力にならない。
対して、おもいっきり人格を入れて、「ほっとかへん社会を、みんなと一緒につくっていく」と言い切ってしまったほうが、その会社の肉声になり、その会社の人が誰かに話しているのが目に浮かぶ理念になります。
ここが、つくるときにいちばん大事にしているポイントだったりします。意味を正しく言語化することよりも、ことばの人格(その企業らしい身体言語になっているか?)の方が、理念の求心力を強めるさいに力を持つ、と私は思っています。
5:とりわけ大事なのがヒアリング
ヒアリングというと、情報を聞き出す作業だと思われがちです。
もちろん、「創立背景」「誰にどんな価値を届けたいのか」「数年後にありたい姿」「大切にしたいカルチャー」など、その企業を知るための基本的な質問はします。しかし、本当の目的はそこではありません。
まだことばになっていない「その人・企業にとって本当に大切なこと」をその人らしいことばで引き出すことです。
そのために必要なのは、情報を集めることではなく、本音で話せる「場」をつくること。相手の思考や感情を整理しながら、自然とことばがこぼれ落ちるのを待ちます。発せられることばだけでなく、表情や間、声のトーン、呼吸。そうした非言語も含めて、その人を感じ取っていきます。
さきほど紹介した兵庫ヤクルトの「ほっとかへん。」というビジョンも、社員さんがヒアリングの中で何気なく口にした一言がきっかけでした。コピーライターの仕事は、ことばを書くことだけではありません。相手の中にある本当のことばを見つけ、掬い上げること。その営みにこそ、本質があると思っています。
AIも対話はできます。でも、その場の空気を感じ、ことばにならないものまで受け取ることは、まだ身体を持つ人間だからこそできることではないでしょうか。
頭で考えたことばは、頭に届く。身体を通って生まれたことばは、心や身体に届く。
私は、その違いを大切にしながら、ヒアリングをしています。
6:コピーライターが企業理念をクラフトする意味とは?
頭で理解できても、心が動かなければ、その理念は組織の求心力にはなりません。
世の中の理念には、頭で理解する「Informationを伝達する理念」と、「これこそが自分たちだ!」と心と身体が共鳴して、動き出したくなる「Emotionまで動かす理念」の2つが存在します。
第三者であり、身体のある人間コピーライターが理念をつくる意味は、後者にあるんじゃないかと思っています。その人・企業の情熱が湧き出す「温泉の泉」を掘り当てて、その人よりその人らしいと思えることばで、表現に昇華する。それが、この仕事のおもしろさでもあります。
理念のコピーライティングは、極端に言えば、経営戦略の言語化よりも「呪術化」に近いものかもしれません。
意味の正しさ以上に、ことばのリズムや文体や間合いが、人の心を動かし、実態を生み出します。
経営戦略という頭で考えたロジックを、クリエイティブの力で、血が通い呼吸をしている理念へと仕立てていく。それが、コピーライターとして企業理念をクラフトする意味だと思っています。
おまけ:「理念図鑑」
ここまで、企業理念のつくり方について書いてきましたが、最後にひとつ紹介させてください。
『理念図鑑』というサイトを運営しています(つくりました!)。
「理念の型」「業界」「ことばの人格」という3つの軸で、いろんな会社の理念を見比べられるサイトです。また「編集部の推し」として、個人的にお気に入りの理念には、推しポイントを一言添えています。
「いい理念、探そう、つくろう。」というタグラインの通り、理念を探すだけでも楽しめますし、自社の理念をつくる際の参考にもなるサイトです。理念づくりに悩んだときは、ぜひのぞいてみてください。
また理念づくりも学べるコピー講座(コピーライティング超体系化ゼミ)も配信中ですので、「じぶんで理念をつくってみよう!」という方は、よかったらこちらもご覧ください。
世の中に「いい理念」がもっともっと増えて、いい企業、いい事業がどんどん生まれますように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
©︎kengai-copywriter 銭谷 侑 / Yu Zeniya
