ことしの初めに、オランダ→ニューヨーク→ポートランドと、ぐるっと世界を周りました。
コロナ前と今では、日常は大きく変わってしまいましたが、まったく新しい世界が訪れたわけではなく、変化のスピードが速くなっただけという感覚もしています。
国境を跨いだ移動は、まだしばらく難しいからこそ、海外で見つけた、人生をより豊かにしそうな「変化の兆し(未来をつくることば)」についてまとめてみます。
今回はオランダ(アムステルダム、ユトレヒト、ロッテルダム)、次回はアメリカ(ニューヨーク、ポートランド)について書いてきます。
より良い未来をつくるために企画やコンセプトを考えている人に、少しでもヒントをお届けできたら嬉しいです。
1、アムステルダム市 2050年プラン「サーキュラー・エコノミー」
サーキュラーエコノミー(循環型経済)は、日本のメディアでも少しずつ取り上げられる機会が増えてきました。
オランダの首都アムステルダムは、サーキュラエコノミーの実験都市として「2050年までに100%循環型都市になる」という野心的な目標と、明確なロードマップを宣言しています。詳細は、下記のURLからご覧いただけます。
邦訳:AKIHIRO YASUIさんのブログ(アムステルダム在住サーキュラーエコノミー研究家)
原文:City of Amsterdam: Policy: Circular Economy
ワクワクするビジョンに、人が集まり、多様なコラボレーションが生まれる。それは企業だけではなく、町も同じです。アムステルダムでは、サーキュラーエコノミーをテーマに、さまざまな新しい取り組みが生まれています。人がワクワクして行動したくなる「ビジョン」は、町の資産であり、観光資源にもなりえるのだなと。
またリモートワークが浸透し、仕事から「暮らす場所」が解放され始めたからこそ、「どこで生きるか=どこの町の価値観やカルチャーに共感して生きるか」に判断軸がシフトしていく。だからこそ「街×ことば」は、より重要な要素になっていくと感じました。
2、「Regenarative(リジェネラティブ)」
アムステルダムのなかでも、町全体でサーキュラーエコノミーを実験するコミュニティ「De Ceuvel」に伺ったさいに耳にしたのが、「Regerative(=再生)」ということば。リサイクルやリユースよりも更に踏み込んだ概念で、壊されたり汚染されたものを「再生」していくという概念です。
「De Ceuvel」は、もともと造船所の跡地で、油等で土壌が汚染された場所でした。そこを、植物を育てることで土を再生することで、人が住める状態にしたそう。また各施設の排水溝に植物が埋められており、景観を良くするだけではなく、各施設から汚染物質を垂れ流していないかを、外にアピールできる機能も持たせていました。
いかにウイルスや、多様な生物や自然と共存していくか。人間中心(市場中心)のデザインから、地球中心(生物中心)のデザインへの流れは、今後も大きくなっていくと思います。人間中心にデザインしていた会社・組織・事業を、地球や生物中心の視点で再構築したとき、新しいイノベーションがたくさん生まれそうです。
写真は公式サイトより引用
3、「INSTOCK」
英語で「在庫がある」という意味ですが、アムステルダムに「INSTOCK」という名前のレストランがあります。
地域のスーパーから廃棄される食材を調達し、「一流シェフが腕をふるう」廃棄食品レストランです。いちばんの特徴は、おいしいこと。世界一と称されるレストラン「noma」で修行したシェフなどが働いており、とにかくおいしい。そして店内では、今まで何食分の食事を提供してきたのか(=RESCUED FOOD「881675食」)は掲出されていますが、コンセプトは前面に押し出しておりません。
社会に良いことをしたいビジネスほど、社会を良くするというビジョンだけでは、インパクトは起こせないのだと感じました。より大きなインパクトをつくるためには、「社会に良いことをしたい」と思わない人も、使ってみたい・行動してみたいと思わせられないと影響力は広がらない。
もちろんビジョンには強い力がありますが、多くの人は、おいしいとか、おしゃれとか、流行っているからとか、そういうことで行動変容を起こすよなあと。ビジョンの強さも、その限界をも知った上で、ビジョンに甘えず、したたかに使い倒すくらいのスタンスが良さそうです。
4、「マテリアルフロー」分析
マテリアルフローとは、国や地域などにおける一定期間内のモノの流れ(投入・排出・蓄積)を、定量的に可視化して分析する手法。たとえば、アムステルダムで毎年開催される音楽フェス「DGTL」でもマテリアルフロー分析を活用しています。
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イベント全体を通じて出るゴミ、使用する電力や水、二酸化炭素排出量。また様々な環境企業と連携し、どのように再利用されているかも可視化しています。このように、イベント・都市のインプットとアウトプットを可視化することは、分析に活用できるのはもちろん、さまざまな展開の可能性を感じます。
たとえば、透明性を活用したブランド構築。たとえば、D2Cのファッションブランド「Everlane」が原価を公表するなど、ブランドにも透明性が求められていく中で、マテリアルフローの考え方や表現法は活用できそうです。
また経営領域のIRや統合報告書などとも、相性が良さそうです。企業活動をどのように社会に発信し、各種ステークホルダーからの期待や応援を獲得していくか。経営領域のものづくりに対しても、クリエーターやデザイナーが介在価値が増えていくのではないでしょうか。
5、「ペンを収穫する」by ゴッホ
ゴッホの故郷であるオランダには、ゴッホ美術館があります。
音声ガイドでゴッホの残したことばを聞きながら、作品をみることができます。作品も素晴らしかったのですが、それ以上にゴッホのことばに、とても発見が多く、衝撃を受け続けました。
個人的に、もっとも印象に残ったのは「ペンを収穫する」ということばです。
その土地の樹木や家畜の毛をつかって、筆をつくっていたらしいのですが、その行為のことを「ペンを収穫する」と表現していたのです。
ゴッホの初期の作品では、農家がたくさん描かれています。
全身を土の色をしながら泥だらけで働く農家の営みに、ゴッホは美しさを見出していました。そして、その美しさを表現するために、その大地から収穫したペンで描いていたのです。
個人的には、いまアムステルダムで生まれている「サーキュラーエコノミー」の活動と通ずるものがあると感じました。SDGsやサーキュラーエコノミーはホットワードで、数年後には死後になっているかもしれません。ただゴッホが、100年以上も前に見出した、人と大地の営みに美しさは、不変だと思います。
6、「コンテナ・レストラン」
アムステルダムは、港町だけあって、さまざまなところでコンテナを目にしました。かつコンテナが有効活用されているケースを多い。中でもいちばんイケてると思ったのが、コンテナを活用したレストランです。
コンテナは、再利用できるだけでなく、移動できるメリットもあります。たとえば遊休地にコンテナを置き、期間限定でお店を開くということも可能です。サーキュラーエコノミーは、資源を循環させることで、起業のハードルを下げるという価値もあるんだなと感じました。
今回のコロナで、飲食や小売業界などは経営に大きな影響を受けていますが、店舗などの固定費が経営を逼迫しがちです。サーキュラーエコノミーを、地球に良いということだけではなく、人の挑戦や起業のハードルを下げるために展開できると、より社会に広がっていくと感じました。
あと個人的には、プレハブってダサい感じがするのですが、コンテナって何かしずります笑。
7、「Mindful Origami」
オランダ在住の日本人からよく聞いたのは「世界に向けて、英語で発信する日本人プレイヤーが少ない」ということ。
たとえば本屋や雑貨屋にいくと、「Mindful Origami」という本をよく見かけたのですが、海外の方が書かれています。また日曜市などの出店でも、海外の方が「unmei」「 kizuna」などのコンセプトでつくったアートや雑貨を販売している姿も目にしました。日本人ではなく、外国の方のほうが、日本文化を発信しているのです。
せっかくならぼくも挑戦してみようと思い、オランダから帰ってきたあと、夫婦で経営しているビジネスデザインファーム「the Tandem」も、英語verのサイトを立ち上げてみました。驚いたのは、1ヶ月も経たないあいだに、googleで「japanese copywriter」と検索すると、16位に夫婦のサイトがヒットする状態になっています。それくらい、日本人は、英語で世界に発信していないです。
たとえばアウトプットの半分を、英語にしてみる、グローバルニッチな市場を狙ってみる、みたいなことは、誰にでもできる夢のあるチャレンジだなと。「日本文化を、英語で発信する日本人は少ない」というのは、考え方によっては「ジャパンドリーム」でもあるなと思いました。日本人こそ、競合か少なく、グローバルニッチなものづくりで一山あてるチャンスがあります。
8、home-office hybrid「Zoku」
「Zoku」は、ホームシェアリングとコワーキングの概念を融合させた、新しいタイプのホテル。Zokuの語源は、日本語の家族(かぞく)。そこに滞在し、働く人々が家族のようなコミュニティを形成するという意味が込められています。
特徴は、まるで自宅のような心地よいリビングルーム。泊まるではなく、「暮らせるホテル」。また各ゲストの部屋以外にもゲスト同士の交流の場となるソーシャルスペースも用意されている。そこでコワーキングやミーティングを行うこともでき、食事や卓球などをしながらリラックスして他のゲストと交流することもできる。
日本では、マイクロツーリズムのような新しい概念も登場していますが、「暮らす」「働く」を再定義するような、ホテルの進化もより進んでいくと感じます。
写真は公式サイトより引用
9、「ビーガンラーメン」
アムステルダムには、日本人店主が開業した「Men Impossible」というビーガンラーメンがあります。ビーガンの人も、ビーガンでない人もおいしく食べられる、独自なラーメンを開発されている。いわゆるスープがなく、汁なし坦々麺や油そばに近いラーメン。
写真は公式サイトより引用
スープを仕込まなくてもよいぶん、労働時間や原価が抑えられ、かつ「飲み残しのスープ」という産業廃棄物もでない。かつ「Men Impossible」は予約制なので、まったくフードロス自体もでない。誰でもおいしく味わえるというだけではなく、働く人にとっても、地球にとってもやさしい。三方よしのラーメンビジネスになっている。
ラーメン屋を開業しようとする人ほど、ラーメンを愛し、こだわる人が多いのではないか。ただ、こだわればこだわるほど、原価も高くなり、労働時間ものびる。いちどラーメンという定義を見直し、作り方も変えてみる。そんなイノベーションの生み出し方もあるのだ。
10、「Floating Farm」
じつはオランダは、農産物輸出額がアメリカに次ぐ世界2位、農業先進国。
オランダ第2の都市ロッテルダムから、自転車で15分くらいのところに「Floating Farm(海に浮かぶ牧場)」があります。水に浮かぶ3階建ての農場で40頭の牛を飼育し、「消費者に近い都市で健康食品を生産すること」を目指して作られています。
このファームには、最先端の自立循環型農場の仕組みが導入されている。 たとえば牛の糞はロボットにより収集され、発電エネルギーや牧草用の肥料として活用。ファームのすぐ横にはソーラーパネルが浮かんでおおり、必要な電力を賄っている。
また牛自身が好きなタイミングでミルクを出すことができるミルクロボットを設置。時折プレイグラウンドと呼ばれる牧草地に出て遊ぶこともでき、アニマルフレンドリーな仕組みにもなっている。
担当者の方に案内をしてもらったときに、印象だったのは「プロトタイプ」ということばを何度も使われていたことだ。このFloating Farm自体が、壮大なプロトタイプ事業だ。今後は、牛以外の動物にも展開したり、農作物の生産も考えているとのこと。
日本では「それスケールするの?」となんて言われそうだが、オランダにはlearning by doingの精神が根付いているらしく、プロトタイプに人やお金が集り、新しいイノベーションを生む土壌があるとのこと。
11、「Tony’s annual FAIR report」
カラフルなパッケージの板チョコ「Tony’s Chocolonley」も、じつはオランダ生まれです。
カカオ生産現場などでの児童労働を問題視し、オランダのジャーナリストが、フェアトレードをテーマに立ち上げたチョコレートブランド。オランダの生活者が選ぶ「サステイナブル・ブランド」では、No.1にも輝いています。
アムステルダムには、Tony’s chocolonely super storeという基幹店があり、ポップで楽しいショップになっている。
その中でもっとも印象に残ったのは、店頭に置かれていた「Tony’s annual FAIR report」だ。無料で配布されているのだが、Tony’sの販売を通して、どれくらいの社会的インパクトがあったのかが、コンテンツとしてまとめられている。
以前、「真鶴町「美の基準」にみる文化をつくることば」という記事でも書いたが、「人がお金を出してでも買いたくなるカルチャーブック・ブランドブックか?」という視点は大切だなと感じた。Tony’sのレポートは、まさにお金を払ってでも欲しくなる内容だった。
IRや統合資料など、企業の経営領域のものづくりに対して、クリエーティブができることは、たくさんありそうだ。表面的にデザインを整えたり、見栄えを良くするのではなく、企業のパーパスに合わせた、泣けるようなIRや、ストーリー性をもったコンテンツ開発など・・・。
12、「Fashion For Good」
「Fashion For Good」は、世界初のサステナブルファッションミュージアムの名前です。
ミュージアムは、地下1階の「過去」から、1階の「現在」、2階の「未来」までの3つのフロアにわかれている。訪れた人が、ファッション業界の現状を目の当たりにし、普段の生活におけるファッションの役割を再定義すること。そして洋服を選ぶ基準を変えることが、このミュージアムの目的だ。
個人的には、展示されているもの以上に、そこで働いている人との対話がおもしろかった。ミュージアムスタッフは、ほとんど若者(おそらく20代前半)で構成されているのだ。話をしてみると、ファッション専門学校などの学生がインターンで働いていた。
未来を担う若者たちが、さまざまな人と「対話」し、より良い未来を考えることができる、ある意味「教育施設」にもなっているのが、とても価値がある場所だなと感じました。
写真は公式サイトより引用
13、「Think of all the beauty still left around you and be happy」by アンネフランク
これは未来の兆しというより、先人のことばです。
世界中で読み継がれる『アンネの日記』の著者で知られるアンネ・フランク。第二次世界大戦中にナチスの迫害を逃れるために、隠れ住んだ建物が、いまは博物館になっています。アンネ・フランクは様々なことばを残していますが、2つのピックアップします。
「Think of all the beauty still left around you and be happy.」
/ たとえどんなに厳しい状況でも、周りに残されているすべての美しいものを思って楽しくやりましょう。
「No one has ever become poor by giving.」
/ 与えることで貧しくなった人は、誰一人としていない。
コロナの影響による、今の生活にも、幸せに生きるヒントになることばだなと思いました。
STAY HOME期間は、ネガティブなことだけではなく、日常にある美しいものを再発見したり、家族との時間を大切にできる時間でもありました。また、さまざまな買い占めも起こりましたが、人を思いやり「GIVE」する人も増えました。
最先端のサーキュラーエコノミービジネスや、おもしろいスモールビジネスから学べるものもありますが、過去の歴史からも学べることも多いとも感じました。歴史を学ぶことは、「より良い未来をつくるための原点回帰すること」でもあるんだなと。変わり続ける世の中なかで、変わらないものはなにか。どんな原点に回帰すべきか。そしていまをどう捉え、どんな未来を描いていくのか。学生のときに、歴史を学ぶ価値に気がついていればよかったです笑。
14、「ドーナツ経済学」
「ドーナツ経済学」は、先述のアムステルダム在住のYASUIさんに紹介してもらった本の名前です。
ドーナツ経済学は、経済成長に依存せずに、環境問題や貧困・格差問題を解決しつつ、豊かで幸福な持続可能社会を構築するための考え方。
詳細は、本やウェブの記事をお読みいただきたいのですが、環境面での超過と社会面での不足をなくし、持続可能な社会をつくるには、すべてをドーナツの中身(上記の図の緑色の部分)におさめる必要があります。GDP成長という一つの目標だけに目を向けることをさけ、総合的に考えることを促すために、この図はつくられています。
経済成長をベースにした社会は、すでに限界が見えてきています。とくに日本は、マイナス成長に入り、「幸せな衰退」をどうつくるかのほうが大きな課題です。たとえば企業のビジョン・ミッションも、「世界一の○○○をつくる」みたいな成長を前提にしたメッセージになりがちですが、それも変わっていくのではないでしょうか。
社会や経済のシステムも変わるくらいの時代だからこそ、コピーライターやプランナーは学び続けないと、社会にインパクトを与えることばや企画は生み出せない時代だと思いました。
ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト
15、「個人事業主(フリーランス)ビザ」
オランダには、個人事業主ビザというものがあります。
1912年に締結された日蘭通商航海条約に基づき、日本人は、オランダでの居住許可を取得しやすいのです。かつオランダは、フリーランス向けの税の控除もあり、かつ18歳まで教育費が無料のため、たくさんの日本人が移住しています。
オランダで、おもしろい個人事業だなあと思ったのは、「日本人ドライバーサービス in オランダ」です。英語が話せないまま移住したそうですが、いまは4姉妹を育てているそうです。
オランダに移住した日本人と何人か会いましたが、高学歴やグローバル大企業に入った人よりも、個人で事業をやっている人が多い印象がありました。個から生まれるスモールビジネスは、その人の人生の可能性広げる力があります。
かつ、行動力があり、新しい価値を生み出せる人材の獲得競争は、企業同士だけでなく、国同士でも繰り広げられていることを痛感しました。
以上、15個のことば(未来の兆しを感じることば)を紹介しました。
次回は、ポートランド&ニューヨーク編をお届けします。また、しばらく更新をさぼっておりますが、家族文化のデザイン(Family Culture Design)もネタを溜めこんでいるので、ゆっくり更新していきます。
©︎kengai-copywriter 銭谷 侑 / Yu Zeniya